ボトルネック、トレードオフの解消

NHKの朝の情報番組「生活ほっとモーニング」で食品ロスをテーマに取り上げていた。

その中であるスーパーの事例紹介がありました。
スーパーでは陳列されている商品のうち賞味期限の長いものから売れていく傾向があるそうです。たとえば牛乳を買うときを想像すると自分のこととしてその消費者心理の傾向に確かに納得できます。そのスーパーでは以前は賞味期限の切れる直前になった商品を半額割引にして売れ残ると賞味期限切れのため廃棄処分となっていました。
このやり方をある方法に変えたところ廃棄量が減り、なおかつ利益も確保むしろ上昇したそうです。
その方法とは、賞味期限切れ直前まで待たずに、商品入荷後、1日でも経過する毎に頻繁に5円引き、10円引きのように段階的な値引きを行うというものでした。VTRでは実際に開店後、午前中のうちに割引された牛乳が飛ぶように売れている様子を映していました。これにより消費者にとっては新鮮なうちに割り引き品を買えるという実利があり、店側としても従来の半額セールまで買い控えされるという消費行動や半額セール売れ残り品の廃棄処分という負のスパイラルから抜け出したようです。現在では廃棄処分は3ヶ月に1度位と笑顔で現場の方が話していました。以前はもっと頻繁に廃棄されていたのでしょう。当初は反発があったそうですが精肉でもこの手法で販売したところロスも減り利益が増えたそうです。

店としては高く売り利益を確保したい。客としてはなるべく新鮮で安く買いたい。
普通に考えたら対立するように見えます。事実、対立しています。ただ、その対立を先鋭化させずに穏やかに緩和・解決すべく模索しうることを、この事例は具体的に示しています。
1個の値段をなるべく長期間、高く設定し、賞味期限切れ直前になってから廃棄処分を回避するために半額にするという戦略。売れるなら確かに利益を確保できるのでしょうが、このやり方では消費者心理に影響を受ける成約率を考慮していないため、その値段設定が結局、全体としての最終的な利益の最大化をもたらさないという事実に、驚きました。
1個の値段を段階的に下げていけば値段と鮮度のトレードオフにより消費者心理に影響を与えて少し期日が経ち少し安い品を購入する確率が上昇する。これによって全体としてのロスが減り結果として単体の値段設定が下がりつつも全体としては増益。普段の食卓にのぼる食品についての話のため、あらゆる商品・サービスについて同じ手法は通用しないのでしょうけれども、相手の選好基準や行動原理を考慮した上で相手の利益に配慮し譲歩しつつ結果として自己の利益も確保するというトレードオフへの対処について、実際に行われている知恵を垣間見えて幸運でした。

糸井重里氏は、任天堂宮本茂氏の「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」という見識を紹介しています。
このスーパーの事例はまさに難しい複数の問題(ロスを減らす、お客様に喜ばれる、利益を確保する)を同時に解決しています。
購入の決め手となる消費者心理のメカニズム、古くなる物をいかに売るか、何をお客は望んでいるのか、何が利益を決めるのか、見えているはずなのに隠れているルールを見つけ出して今までのパターンから離れて解決する。スーパー経営の実際について何一つ知らないのですが、感銘を受けました。