黄金の源氏絵巻

NHKスペシャル「源氏物語 黄金絵巻の謎」を少し見ることができた。

江戸時代に作られたと見られるこの絵巻の異常な点は、通例、源氏絵巻には華やかで雅な場面が選ばれ描かれるのに、この作品には光も影も双方描かれている、とのこと。巻物が裁断されオークションにより世界に散逸した絵巻の断片を追うフランスの研究者も日本の研究者もともにその源氏絵巻の常識からの逸脱を指摘していました。栄華も恥辱もどちらもきらびやかな黄金の装飾のうちに描かれ既存の枠とは異なる美意識に基づく発注者の意図。番組では研究者・稲本万里子氏による、徳川幕府と確執のあった後水尾院(後水尾天皇)が京狩野に描かせたのでは、との仮説を紹介していました。絵画の技法、題材の選び方から絞り込まれる発注者の地位、作成時代での政治状況など仮説立案の背景となる根拠の見せ方も推論の妥当性に説得力を感じました。一方でもちろん他にも有望な仮説も研究されていくのでしょう。

まったく知らない世界について興味深く惹きこまれる面白く美しい番組をつくるNHKはやはりすごい。
源氏物語についてもその絵巻物についても基礎知識の無いものですが、番組の紹介した、この散逸された源氏絵巻の特異性にはそれを作らせた人の強い想いがあったということが伝わってきました。良いことも恥ずべきことも両方あるがまま美しい絵にした。善く生きるとは自分にとってどういうことか深く考え模索し求めた人の気配を、その特異と言われる絵巻のあり方から感じられた気がします。